娘と父のあいだに流れた、時間。
よせてはかえしながら
波にあたって、きらり、きらりと反射しては
消えるひかりのような記憶の断片。
娘と父、というのは微妙な関係性だ。
近すぎず、遠からずの距離。
安西カオリさんの文からは、
感傷的になることなく記憶を辿りながら、
〝父という人〟を
見つめているのが伝わってくる。
旅先での会話。
父のふるさとの海辺の記憶。
絵のしごとの話し。
喫茶店で話した時間。
娘の前だから話した話しもあると思う。
話さなくても、感じとっていたことも
あったと思う。
鎌倉山に書斎をもった父の気持ちを
娘の目で書いた章もとてもよい。
「さざなみの記憶」という言葉が
絵になったような、
白いページに青い色のみで添えられていく
水丸さんのスケッチ。
いつの日か父がこの世をさったあと、
私にはどんな「さざなみの記憶」が
ひかるだろう。
◯新潮社発行