湿り気があるような寂しくも
美しい写真がエストニアに流れる空気を表すような色合いの表紙。
「〜紀行」と言われると、開かずにはいられないのは私だけでしょうか?それが気になる国、
好きな作家のものならなおさらです。
バルト三国のひとつ、豊かな森の国と言われるエストニア。
北欧雑貨などで、親しみもある国ですが、
その国の歴史は何百年も侵略に脅かされ続けてきました。
歴史を背負いながら
独特の文化を守り、国民性を育んできたのだということが、自然豊かな土地を旅する美しい描写とともに綴られます。
私が特に好きな場面は、
早朝、梨木さんが長靴をはいて森を散歩したときの文章。
梨木さんはたいてい、旅に出るスーツケースの中に長靴を入れるらしいのです。
場所も取るけれど、ここだけは譲れない旅の
アイテム。
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(森の中に)
じっとしていると、ときどき自分が人間で
あることから離れていくような気がする。
〜略
個と個の垣根がなくなり、
重なるような一瞬がある。
生きていくために、そういう一瞬を必要とする
人々がいる。
人が森を出ても、人の中には森が残る。
だんだんそれが減ってくる頃、
そういう人々はまた
森に帰りたくなるのだろう。
〜本文より抜粋〜
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旅の進行とともに、綴られていく文章を
読み進めるうちに、深い森と湖の広がる遠い異国の土地を共に旅をしているような感覚になっていきます。